ファズ、ディストーション、オーバードライブなど、音を歪ませる(ひずませる)エフェクターには、いくつかの種類があります。
「結局、自分が良いと思う音が出れば、どんな呼び名でも良いじゃん!」
そんな声も聞こえてきそうですが、それぞれの違いがハッキリ分かっていれば、適格な使い分けができるというものです。
そこで、今回は「歪み系エフェクター」について、考えてみましょう。
歪み系エフェクターとは
ファズ、ディストーション、オーバードライブなどのエフェクターは、総じて『歪み系エフェクター』と言われています。
ギターの音を歪ませることで、音が攻撃的になる演出効果が生まれるため、歪み系エフェクターはハードロックには欠かせないエフェクターです。
この「音が歪む」という表現は、ギタリストやプレイヤーサイドの言い方で、一般的には「音が割れている」という表現をします。
ですから、ギター初心者の人がこれらの音の違いについて区別がつかないのは、当たり前なのです。
ギター歴が浅い人には、音が割れているという認識しかないのですから・・・
音が割れる
この「音が割れる」という状態は、音響上は好ましくないことです。
なぜなら、回路を設計通りに使用している状態では、音が割れることがないからです。
【設計通りの状態】
つまり、音が割れている時点で、回路の中のどこかで無理な負荷がかかっているということなのです。
主な原因として考えられることは、過大信号の入力です。
過大信号とは、その回路が設計された時の信号レベルよりも大きい信号のことを言います。
大きすぎる信号なので、当然、回路の中に入りきることができません。
これは、水を容器に汲むときに、容量よりも多くの水を注いでいる状態と同じです。
水だと入りきらない分はこぼれますが、オーディオ信号も同様に、入りきれない部分はこぼれてしまいます。
これが、オーディオ信号の波形の上の部分なのです。
つまり、波形の山の上の部分が削り取られることによって、音が割れるという状態が発生するのです。
【音が歪んだ状態】
昔の人が、ギターアンプを使う中で、偶然、この状態を発見し「何かカッコいいぞ!」ということで使われ始めたのが、歪み系効果のきっかけと言われています。
歪むという状態
まず、歪み系エフェクターが、どのようにして『あの音』を作り出すのかを、考えてみましょう。
まず、音を大きくするためには、アンプを使いますが、このことについて少し専門的な話をしますと、エレキギターの弦の振動は、ピックアップを通して電気(交流)に変換され、ギターアンプに入ることで増幅(電気的な音量が大きくなること)されるということになります。
この増幅回路にギターの信号を入れる際に、わざと大きいレベルで入力することで、レベルオーバーさせて音を割っている(歪ませている)のです。
以下の図は、歪み系エフェクターの概要を簡単にしたものです。
歪み回路の前後に可変抵抗(ボリューム)が設置されています。
【入力ボリューム】
歪み回路へインプットするレベルを調整します。
ギターアンプの場合は、GAIN(ゲイン)と刻印されたボリュームが、これにあたります。
エフェクターでは、DISTORTION、DRIVE、SUSTAINなど、歪み方の調整に当たるものが、このボリュームツマミです。
※ここのレベルを上げると、入力ボリュームが上がり、歪み回路に大きな信号が入るので、歪みの量が大きくなります。
【出力ボリューム】
歪み系エフェクターは、回路に過大入力することで歪み効果を作り出しています。
ですから、歪み回路から出力された信号は、そのままでは大きすぎます。
そこで、出力側にもボリュームを設け、入力前の信号に近い状態になるようにレベル調整するのです。
ギターアンプの場合は、MASTER(マスター)と刻印されたボリュームです。
エフェクターの場合は、LEVEL、VOLIME(VOL)、OUT、BALANCEなどと刻印されたツマミが、出力ボリュームです。
歪み系エフェクターの種類と回路
ファズ、ディストーション、オーバードライブなど、音を歪ませるエフェクターは何種類かあります。
元々は、以下のように歪ませる方法(回路)によって呼び分けていたようです。
FUZZ(ファズ)
増幅回路にトランジスタを使って歪ませるものが多いようです。
トランジスタ特有の、倍音が多いジリジリとした音が特徴で、Fuzz(毛羽だった音、割れた雑音)という印象から、ファズというネーミングが付けられたという説もあります。
ファズの使い手として有名なギタリストには、ジミ・ヘンドリクスがいますが、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」のギターも、典型的なファズサウンドです。
DISTORTION(ディストーション)
オペアンプで増幅した信号をダイオードなどのクリッピング素子(一定以上の電圧にさせない素子)で歪ませた回路です。
ディストーションの由来は、英語のdistortion(音響用語:歪み・光学用語:ゆがみ)からきています。
1970年代以降のハードロック、80年代のヘビーメタルなどには欠かせないサウンドです。
OVERDRIVE(オーバードライブ)
真空管アンプ全盛期の頃の楽器用アンプは、設計範囲を超えた音量で鳴らすと、アンプから出る音が歪む構造でした。
この状態を、オーバードライブと言います。
これをロックミュージシャン達が、これを好んで意図的に利用したところから、この効果をオーバードライブと呼ばれるようになりました。
ここに挙げた3種類の中では一番おとなしい歪みで、1970年代に流行ったフュージョンやロックには欠かせないサウンドです。
当時は、より大きなオーバードライブ効果を得るために、ブースター(電気的な音量を大きくするエフェクター)を 使う方法も流行っていました。
現在では、真空管を使っていないペダルエフェクターでも「オーバードライブ」というネーミングのものがありますが、あくまで、サウンドデザインの方向性から付けられたイメージ的なものと理解すれば良いでしょう。
つまり、「回路はディストーションだけれどオーバードライブ風な音がする」ということです。
ここまで、簡単に、それぞれの違いについて説明しましたが、
歪みの度合いとしては、
ファズ > ディストーション > オーバードライブ
というイメージになると思います。
オーバードライブの特徴
アンプに過大入力することで歪ませた音を似せたものなので、ウォームでマイルドなサウンドが特徴です。
ファズやディストーションよりも音が潰れにくいので、ピッキングのニュアンスやコードを弾いても、グシャっとした感じはありません。
ディープパープルやレッドツェッペリンなどの70年代ハードロックや、ジェフベックのようなフュージョン系ロックを演奏する場合は、ディストーションやファズより、オーバードライブを深めにかけたほうが雰囲気が出ます。
一方で、近年のロック奏法にみられるような、すべての弦をかき鳴らすようなストローク奏法も、コード感を重視するならば、オーバードライブがおすすめです。
又、歪み系の一種である「クランチサウンド」は、ちょっとだけ歪んでいる音のことなので、オーバードライブを薄っすらかけることで作り出すことができます。
特にクランチ専用エフェクターというものは販売されていませんので、プレイヤー自身が模索して、自分のイメージに合ったエフェクターを探す必要があります。
ちなみに、私が講師をしている専門学校の学生の間では、ボスのBD-2(ブルースドライバー)というオーバードライブが圧倒的な人気でした。
ディストーションの特徴
オーバードライブよりはしっかりと歪みますが、音の輪郭はハッキリしており、ピッキングの強弱も、それなりに聴きとることができます。
又、ファズほどジリジリした歪み方ではないので、バンドアンサンブルにも溶け込みやすく、オーバードライブよりもエッジが効いて存在感があるため、初心者の人でも使いやすいオススメのエフェクターです。
80~90年代のハードロックをプレイする場合、オーバードライブでは物足りなさを感じる人は、思い切ってディストーションにチェンジしたほうがスッキリします。
ボン・ジョヴィやナイトレンジャー、ヴァン・ヘイレンなどのサウンドは、オーバードライブよりはディストーションの方が出しやすいと思います。
代表的なエフェクターは、PROCO(プロコ)のRAT(ラット)ですね。
80年代にジェフ・ベックが愛用したことで、世界的に有名になった機種です。
ファズの特徴
一口にファズと言っても、非常に幅広く、人によってイメージが違うと思います。
ヴェンチャーズの歪んだ音(電池切れのディストーションのような音)をイメージする人もいれば、ジミヘンを連想する人、サティスファクションのイントロを思い出す人などなど・・
どこまでがファズで、どこからがディストーションなのか、ハッキリした定義が無いので、その区分けは人によって異なります。
ですから、市販されているエフェクターで、メーカーがファズと言っているものがファズという認識で良いと思います。
現在、市販されているファズは、物凄く歪ませるエフェクターのようです。
音を潰すほど強く歪ませるので、ピッキングの強弱が出にくく、コードを弾いてもグシャグシャになってしまう反面、サスティーンが得やすいという特徴があります。
その感触は、コンプレッサーを目いっぱいかけた状態でディストーションを目いっぱいかけたという感じでしょうか。
弱く弾いても簡単に音になりますが、力強く弾いても音が前に出てきません。
私の経験では、昭和の時代に友人から借りた「サスティナー」のような感覚でした。
実際に楽曲の中で、そこまで強くかけることはないと思いますが、メンバーが多いバンドの中では、音が埋もれてしまうかもしれません。
ファズの代表的な機種は、ビッグマフやファズフェイスなどがあります。
私は、ビッグマフも所有しておりますが、それよりはマクソンのD&Sのほうが、扱いやすいという印象です。
オーバードライブ/ディストーション/ファズを比較
オーバードライブ、ディストーション、ファズの3種類について、個人的なイメージで分類してみました。
好き嫌いではなく、客観的な印象なので、皆さんの選択情報の一部として参考にしてみてください。
OD | DS | FZ | |
歪み | 5 | 7 | 10 |
サスティーン | 5 | 7 | 10 |
ピッキング | 8 | 7 | 2 |
コード感 | 8 | 7 | 1 |
アルペジオ | 8 | 6.5 | 0 |
バッキング | 10 | 8.5 | 2 |
ギターソロ | 8 | 9 | 9 |
汎用性 | 9 | 9 | 5 |
- OD⇒オーバードライブ
- DS⇒ディストーション
- FZ⇒ファズ
歪み系のエフェクターの選び方
エフェクターを選ぶ場合には、その楽曲のイメージに合ったものをチョイスするのが鉄則です。
例えば、メタリカのようなゴリゴリのロックをやる場合は、クランチやオーバードライブでは物足りなさが半端ないです。
この場合は、ファズに近いディストーションで、バッチリ歪ませなければカッコ悪いです。
BOSSのエフェクターならば、SD-1(スーパーオーバードライブ)やBD-2(ブルースドライバー)よりは、MT-2(メタルゾーン)の方がベストチョイスです。
では、メタルゾーン(ディストーション)があれば、すべてOKかというと、そうはいきません。
- メタルゾーンでイーグルスは、うるさいです。
- メタルゾーンでマイケル・シェンカーは重すぎます。
したがってこれらの楽曲は、オーバードライブの方が良いと思います。
ですから、歪み系エフェクターは「コレ1台でOK」というものではないのです。
この違いが分かる人は、少なくともディストーションとオーバードライブを1台ずつは所有しておいたほうがいいでしょう。
逆に、初心者の人で何を選んだらいいのかわからない人は、ボスやマクソンなど、国内メーカーのディストーションを1台買っておくと無難にこなせると思います。
経験を積んで、楽曲にあった「歪み」が判断できるようになったら、色々なエフェクターを試奏して、
好きな音がでるものを集めていきましょう。
歪み系エフェクターは、極めるほどに奥が深いんですよ!!
オーバードライブ/ディストーション/ファズの歪みの違いまとめ
最後に、今回の要点を整理してみましょう。
① 歪みの原理は増幅回路や部品に過大な信号を入力することにより発生するオーバーレベルなので、歪みが強くなるほど音が潰れてピッキングのニュアンスが損なわれる。
② 歪みが強い順に、ファズ > ディストーション > オーバードライブと呼ばれているが、明確な区分があるわけではない。
③ 歪み系エフェクターの選び方は、プレイヤー自身の楽曲に対するイメージで決める。
ファズ、ディストーション、オーバードライブは、元々は「歪ませる方法(回路)」によって区別されていましたが、現在では、エフェクターメーカーが設計時にイメージした音を製品名にしていることが多く、
それに伴い、3種類の歪み系エフェクターの区分も曖昧になってきました。
(柚子胡椒という調味料に、実際にはコショウが入っていないようなものですね・・??)
ですから、これら3種類の歪み系エフェクターは、プレイヤー自身がしっかりとイメージを確立して、使い分けなければならないというのが、私の結論です。
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